地獄の料理が食べられる?

鉄輪バス停から徒歩1分。

温泉(いでゆ)坂を降りてすぐの所に、異様なまでに煙が立ち上る場所があります。

しかしそれは、決して火を焚いたものではなく、全て地下から湧き上がる蒸気。

地獄のように蒸気に包まれたこの施設こそ「地獄蒸し工房鉄輪」です。

「地獄」というのは、800年の昔、鉄輪地域が湯けむりだらけで、まるで地獄で住むことのできない程の土地だったことからそう呼ばれていました。

この地では、「地獄の料理」ではなく、「地獄蒸し料理」が食べられます。

そして、地獄蒸し工房鉄輪は体験施設で、摂氏98度で100%地熱エネルギーの温泉噴気を利用して、食材をその場で蒸して食すことができます。持参した食材を蒸すことも出来るのが特徴です。

平日であっても常に人の絶えない鉄輪地獄蒸し工房。

今回は、その館長を務める大石さんに話を伺いました。

地獄蒸し料理の可能性は、無限大。

別府出身の大石さん。生まれた頃から、別府の湯けむりや温泉は当たり前でした。

そんな大石さんは、10年前に子供の頃から憧れだった沖縄に移住し、地元料理の研究。沖縄にも蒸し料理があるそうで、その経験がまさか今こうして繋がるとは思ってもみなかったとか。

実は地獄蒸し工房鉄輪は、数年前に、経営が市営から民間になりました。
そして2018年4月より厨房責任者を任命されることになった大石さん。

同年9月、あれやあれやと、気づいたら館長に。

大石さん「まさか自分が地獄蒸し工房の館長になるとは思いませんでした。
でもやるからには。と思って、研究を重ねました。」

そこからというもの、大石さんは地獄蒸し料理にエネルギーを注ぎます。

別府の割烹料理屋「割烹平家」さんと組んでメニューを考案。

そして毎日、食材ごとに美味しい調理法を研究。何度も何度も実験しました。

大石さん「例えば食材1つとっても、蒸し時間を5分にするのか、あるいは1時間にするのかで全く違う。またそれを厚く切るのか、薄く切るのかでも全く違う。また、温泉は生き物。日によって機嫌も違うから、蒸気の出方も違う。さらに食材もたくさんあるので、地獄蒸し料理の可能性は無限大だと思います。」

今や、施設で提供するメニューだけでも30種類を超えていて、何度来ても楽しめることがいい。1週間滞在する人であったとしても、毎日来ても全メニューを食べきれない。

また、大分の野菜や肉など食材にこだわっているので、常に新鮮な食材を口にすることができます。

「おかえり」「ただいま」の関係を

地獄蒸し工房鉄輪は、日本人観光客だけではなく、外国人の方も多くお見えになるそうです。

外にまで溢れる人の数。その半数は、外国人のお客さんです。

大石さん「父に昔から『ここに生まれたからには、人との付き合いを大事にしろ』と言われ続けてきました。確かにそう考えると、小さな頃から色んな人が周りにいました。そのせいか、いつからか『他人』という感覚はないですね。」

初めて出会った人であっても、一度出会ったからには仲間。

確かに、地獄蒸し工房の皆さんは、年齢を問わず非常に仲が良く、常に活気があります。

普段は別の土地にいたとしても、別府に来て出会ったからにはもう「他人」ではない。

だからこそ、この施設に魅力を感じ、何度も訪れるお客さんがいるのだと思います。

大石さん「いつも来てくれる海外のお客さんが、『ただいま』と言ってくれます。それに対して『おかえり』と言える関係が良いですよね」

稼ぐ < 楽しんでもらう。目指すは食のテーマパーク。

長期滞在の人には、どんな楽しみ方をすれば良いか聞いてみました。

①毎日違う食材を食べてみる

②宿泊施設で、蒸し時間を工夫してみる

③泉源が違うと成分が違う。一貫して同じ蒸し料理はできない。だから違う場所でも試してみる

温泉は生き物。奥が深いものです。

そして最後に、大石さんに目指すところを聞いてみました。

大石さん「目指すところは、食のテーマパークですね。自分たちが稼ぐことよりも、何よりもお客さんに楽しんでもらいたい。そして、もっと地元の人にも利用してもらいたいです。あと海外の人には、別府の楽しみがまずここになってほしい。ここがハブとなって、次のプランを立てたりとか。待ち時間が1時間とか長い時があるので、もっと鉄輪を歩き回ってほしい。ここが起点となって、鉄輪地域をもっともっと盛り上げたいです。」

大石さんの目指すところは、地獄蒸し工房鉄輪の成功だけでなく、お客さんにもっと楽しんでもらうために、鉄輪地域がもっともっと盛り上がること。

「地獄蒸しの可能性は、無限大。」

そう語る大石さんの目は、終わりのない探究心に溢れていました。

取材日 2019年8月28日
取材:大堂麻里香
撮影・執筆:天野智