鉄輪温泉。別府の風物詩と言える湯けむりが立ち昇る温泉地だ。

九州横断道路入り口から車で約10分西に行くと、鉄輪温泉入り口を少し過ぎた、交番の反対側に「おにやまホテル」がある。その名前のインパクトとは対照的に、創業から62年間、ブレずに「笑顔」を追求してきたおにやまホテル。
別府では最大級の広さの温泉、扇山と別府湾と湯けむりに囲まれた絶景の宿は、「人気温泉旅館ホテル250選」で5つ星の宿に認定されている。

*人気温泉旅館ホテル250選とは・・・旅行会社社員など”旅のプロ”が選んだ温泉旅館ホテルのこと

立ち寄り湯も可能な1階露天風呂。

今回は、衛藤昭治(えとう・はるあき)支配人に話を伺った。

おにやまホテルの支配人として。

支配人(以下、支)「出身は速見郡・山香町(現在は杵築市と合併)です。高校卒業後、埼玉県で10年ほどサラリーマンをした後、親の危篤で大分に戻ってきました。そこで仕事を探さなければいけなかったので、最初は別府駅付近の旅館で15年間ほど働き、今ここで約17年ですね。」

インタビュアー(以下、イ)「今まで何を大切にされてきましたか?」

支「とにかく笑顔です。お客様に笑顔を、社員に笑顔を、地域に笑顔を。毎日、お客様のアンケートを印刷しては、全11部署に配布しています。何か改善点があれば、すぐ修正。今となってはクレームもなく、お客様には笑顔で帰っていただけていると思います。あと、優しいホテルになろうと思っています。」

イ「例えばそれはどんなことでしょうか?」

支「例えば、足の悪いお客様が来られた場合に、車椅子を用意したり、エレベーターの近くに部屋を用意したり、和室の場合は簡易ベッドを準備したりします。他にもお子様がいる場合やご要望があった場合は対応させていただきます。ただ、お客様の笑顔を追求するばかり、過剰サービスなんじゃないかと思うこともあります(笑)」

夕食なしの宿泊者に周辺情報を求められて作った周辺地図。
ニーズに即対応。

苦しかったことと、乗り越えてきたこと。

支「もしかしたら今かもしれません。先ほども言ったように、笑顔がもっとも重要です。しかし、働き方改革の時代ですから、労働時間に制限がある一方で、サービスの質は下げられない。その分人数を増加することによって、人件費が拡大しています。かと言って、サービス残業は、社員の笑顔を考えた時に進めるべきではありません。そのため、1人1役ではなく、2役以上のマルチに活躍できる人達を育てる必要があります。今まさに、日本の社会もそうですし、当ホテルも変革の時期だと捉えています。」

浴場係とフロントなど、1人が2役以上も。
決してサービスの質は下げない。

おにやまホテルのオリジナリティ。

支「露天風呂でしょうか。絶景を見ながらの温泉は最高です。男性側は山側で、扇山が望めます。4月の野焼きの時は、目の前で野焼きが見れるため、その景色はもう圧巻です。」

山側の男性露天風呂。扇山を眼前に望む。立ち寄りも可能。

支「そして女性側は海側で、別府湾を望むことが出来ます。湯けむりが立ち昇るのも見えますし、これだけ贅沢に温泉を堪能できる場所はなかなかないと思います。」

海側の女性露天風呂。別府湾と湯けむりに囲まれる。
海の方を見ると、別府湾が一望できる。

支配人がすすめる、見所と魅力。

支「お気に入りの場所は、1つは部屋ですね。屋上の露天風呂でもありましたが、山側と海側で見える景色が違いますが、どちらも別府ならではの景色だと思います。」

支「あとは何と言っても、東郷青児(とうごう・せいじ)氏の絵です。19世紀の洋画家で、銀座にも画廊があり、ピカソとも交流があったような有名な画家です。2人の甘美な女性像の間には、三角の形をした扇山と湯けむりが表現されています。この絵は世界でもここでしか見られないので、ご存知の方は『おお〜東郷青児だね』なんて言ってくれます。」

フロント横にある東郷青児の絵。別府を模している。

おにやまホテルの未来。

支「現在、働き方改革をはじめとして、国家間の政治問題や感染症拡大などの外部環境の変化は、非常に大きな変化です。しかし、お客様、社員、地域の笑顔を求めていくことに変わりはありません。有難いことにリピーターの方が多いので、『ただいま』『おかえり』の関係性を続けていくことも重要だと思っています。それが日本の方であれ、外国の方であれ、対応が変わることはありません。また、数年したら古い建造物は取り壊し、また新しい棟が建ちます。しかしハードだけではなく、ソフトで勝負し続けていきたいと思っています。」

鬼山ホテルの最大の魅力。

おにやまホテルの魅力は「地域最大級の温泉」だけではなく、なんといっても「人の魅力」だった。どんなに施設が新しくてハイセンスでも、温泉が気持ち良くて料理が美味しくても、部屋が綺麗で過ごしやすくても、サービスを提供する「人の魅力」がなくては台無しだ。しかしそれは、ただ笑顔を振りまく人のことではない。

「お客さんがどうすれば笑顔になるだろうか?」という問いに厳しく向き合い続ける女将や支配人、従業員が、優しい心遣いを持って接客していることが最大の魅力だった。

ここには、お客様と社員、そして地域を笑顔にする
おにやまホテルの優しい心遣いがあった。

まさに、「鬼に金棒」だ。

取材日 2020年2月12日
取材・執筆:天野智
撮影:大堂麻里香